『イン・ザ・メガチャーチ』感想・ネタバレなし|推し活の熱狂と恐怖を描いた2026年本屋大賞受賞作

推しがいる。それは幸福だ。心が動く場所があって、仲間がいて、物語がある。

ではその熱狂が、誰かによって設計されていたとしたら?

朝井リョウの『イン・ザ・メガチャーチ』は、その問いを真正面から書いた小説だ。
2026年本屋大賞受賞、50万部超のベストセラー。
読み終えた後、自分の「推し活」への目線が少し変わる。

いや、変わらずにいられない。

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目次

朝井リョウと『イン・ザ・メガチャーチ』やっぱり面白い

朝井リョウは2009年、大学在学中に『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2013年には『何者』で第148回直木三十五賞を受賞し、同賞史上初の平成生まれの受賞者となった。就活・職場・SNS・承認欲求——現代人の「生きづらさ」の核心をエンタメとして書き続けてきた作家だ。

本作のタイトルにある「メガチャーチ」は、本来は数万人規模の信者を抱える巨大教会を指すが、本作では特定の対象を熱狂的に支持する集団や、その熱狂を加速させる社会構造を象徴している。宗教小説ではない。
推し活・ファンダム経済という、今この瞬間も現実に動いている現象を解剖した小説だ。

日本経済新聞夕刊にて2023年4月から2024年3月まで連載された小説を単行本化した長編作品。
2025年9月刊行後、瞬く間に増刷を重ね、2026年本屋大賞を受賞した。

『イン・ザ・メガチャーチ』あらすじと登場人物(ネタバレなし)

本作は3つの視点人物が交互に語る多視点構造を持つ。

ファンダム経済を仕掛ける側、のめり込む側、かつてのめり込んでいた側——3つの視点が交差しながら、「人の心を動かす物語」が何をもたらすかを浮き彫りにしていく。

久保田慶彦はレコード会社の財務部に勤務する47歳で、離婚して一人暮らしをしている。ひょんなことからあるアイドルグループの運営に携わることとなる「仕掛ける側」の視点人物だ。


武藤澄香は慶彦の娘で、九州の大学に通う女子大生。繊細で内向的な気質ゆえに生きづらさを抱えており、心身の癒やしを求めてある「物語」に傾倒していく。


隅川絢子は30代半ばの会社員で、仲間と共に舞台俳優を熱心に応援することが生きがいだったが、ある報道をきっかけにその日常が揺らぎはじめる。 

「仕掛ける者」と「のめり込む者」と「はじき出された者」。三者がそれぞれ異なる角度から同じ現象を見ている。どの視点も、どこか自分と重なる。それがこの作品の巧みさ。

「ファンダム」という構造を分解するのがおもしろい

熱狂は本物だ。それは否定できない。そして朝井リョウが書くのは、その熱狂が「つくられる」過程だ。

感情を動かす物語を、誰かが意図的に作り、流通させる。推しへの愛は本物でも、その愛を煽る仕組みは、信者から集金するチャーチマーケティングと構造が同じだという指摘が、この小説の最も恐ろしい部分。

読みながら何度も居心地の悪さを覚えた。登場人物たちの行動が理解できないわけではない。むしろ理解できてしまう。誰しもが誰かを応援し、誰かの発信を待ち、誰かの言葉に救われたことがある。

だから他人事として読めなかった。

読みながら、自分がどちら側にいるのかが分からなくなる。
のめり込んでいる自分も、仕掛けられた側の自分も、同時に存在しているかもしれない。善悪の判断を保留したまま、気づけば物語の深部に引きずり込まれている。

タイトル『イン・ザ・メガチャーチ』の意味を考察

「メガチャーチの中に」という意味のタイトルは、場所を示すだけではない。

「中にいる」という状態の恐ろしさは、中にいる間は見えないことにある。界隈の熱狂の中にいるとき、外から見た自分の姿は見えない。物語に包まれているとき、それが誰かに作られたものだとは気づけない。

朝井リョウはこのタイトルで、登場人物たちだけでなく、この本を読んでいる私たち自身にも問いかけてくる。
あなたは今、何の「中」にいるか。
会社、家族、SNS、推し活、信仰——構造は変わらない。

『イン・ザ・メガチャーチ』はこんな人に刺さる


– 推しがいる、または過去にいたことがある人
– 熱狂している自分を、少し引いた目で見たくなる人
– 朝井リョウの『何者』『正欲』で心を揺さぶられた人
– 多視点構造で、誰の言葉も100%信じられない緊張感が好きな人
– エンタメとして面白く、読後に何かが変わる作品を求めている人

一気読み推奨。読み始めたら3人の視点が切り替わるたびに止められなくなる。
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『イン・ザ・メガチャーチ』を読んだあとに手に取りたい2冊

『爆弾』呉勝浩

取調室という密室で繰り広げられる、怪物的な男との知的格闘。「狂気に見えるものが、じつは設計されている」という構造において、本作と静かに響き合う。メガチャーチで「仕組みの怖さ」に触れた後に読むと、二度怖い。

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『何者』朝井リョウ

就活という舞台で、SNSと承認欲求と「自分を演じること」を解剖した直木賞受賞作。本作と同じく「人が人の感情を操作する構造」を描いており、朝井リョウという作家の核心がここにある。本作が初・朝井リョウなら、次はこれ。本作を読んだ後なら、改めてこれ。

『イン・ザ・メガチャーチ』が今読まれる理由

本屋大賞という看板を外しても、この作品は素晴らしい。

3人の視点が切り替わるたびに、
「次は何が起きるんだ」
が積み上がっていく。

社会派小説として読める一方で、エンタメとしても強い。

推し活が日常になった時代に、その熱狂の設計図を見せてくれる小説は少ない。
推し活で思い出すのが芥川賞受賞作の「推し燃ゆ」くらいしかすっと出てこない。あちらも素晴らしかったが、あの作品とは全く別なもの。

読み終えた後、少しだけ自分の「界隈」を外から見てみたくなる。
朝井リョウは「気持ちよくなれる話」を書かない。それが、この作品が受賞を超えて語られる理由だと思う。

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