ある日の夜中、読み終えてから気づいたら30分ほど何もしていなかった。ページを繰る手が止まったのではなく、読み終えた後、おもわずぼんやり、いや呆然と?
湊かなえ『告白』は面白いか?読む前に知っておきたいこと
結論から言えば、「面白い」が直線的なエンタメの面白さからはちょっとずれる気がする。そして読み終えたあと、誰かに話したくなるのに、何を言っていいかわからなくなる。そういう種類の本。
湊かなえのデビュー作というのは有名な話で、第一章「聖職者」が小説推理新人賞を、2009年には本屋大賞を受賞している。松たか子主演で映画化もされ、売れに売れた本と言っても過言ではない。
で、読んでみると「なるほどこれは賞を取る」とやはり納得してしまう。物語に没入しながら、頭の片隅で構造の精巧さに舌を巻いている、そんな心持ちで読んだ。
あらすじ——中学校の教室で始まる、静かすぎる告白
舞台は中学校の教室。終業式のあとのホームルーム。
担任の森口悠子先生が、退職の挨拶をしている。ざわつく生徒たち。でもその「挨拶」は、徐々に違う色を帯びてくる。
先生には、幼い娘がいた。その娘が、死んだ。事故として処理された。でも——と、森口先生は淡々と話しつづける。教室は静まり返る。いや、静まり返る、なんて生やさしい表現じゃないかもしれない。凍りつく、に近い。
彼女の告白が引き金になって、物語はそれぞれの視点へと分岐していく。生徒、保護者、関係者——それぞれが「自分の側から見た真実」を語る構造になっていて、読み進めるたびに「あのシーンはそういうことだったのか」という感覚が重なっていく。ジグソーパズルのピースが合わさる快感、とは少し違う。もっと不穏で、もっと重い。
ネタバレは絶対にしたくないので、これ以上は言わない。ただひとつだけ。最後の数ページで、出てくるある言葉を読んだとき……。
読んでいる最中の「体感」について少し
怖い話に分類されることもある。日常に潜む怖さ。人の怖さ。
いまや「イヤミス(読後に嫌な気分(イヤ)になるミステリー)」の略称の女王の称号は彼女のもの。いや彼女がいたから「イヤミス」というジャンルができたと言っても過言ではないのでは。
人間の心が、どこかでこっそり違う方向へ歪んでいく様子。その歪みに気づかないまま生きている人の姿。「自分だったら」と考えはじめたが最後、ちょっとまずいところに踏み込んでいく感じがある。
文体は淡々としている。感情的な叫びより、静かな独白のほうが怖いことを、この本は知っている。
読んでいる途中から、読者はひたひたと追い詰められていく。それは描かれる世界の住人たちの気持ちがわかってしまうかもしれないという類の怖さでもある。
こんな人におすすめ
– 心理描写が濃いミステリーが好きな人
– 読後に「誰かと話したい」気持ちになる読書が好きな人
– 一晩で読み切りたい、引力のある本を探している人
– 映画を先に観て、原作が気になっている人
– 湊かなえをまだ読んだことがない人(入口としてかなりいい)
この作品の楽しみ方
個人的には、夜ひとりで読むのをすすめる。
静かな部屋で、一気に読む。途中で止めると、変な夢を見そうになる。
あわせて読みたい関連作
『贖罪』湊かなえ
『告白』を読んで湊かなえの筆に引き込まれたなら、次はこちら。ある事件を軸に、複数の人間がそれぞれの「けじめ」を抱えて生きていく話。視点が変わるたびに、同じ出来事の色が変わっていく構造は『告白』と共鳴するものがある。読み終えたあとの重さも、同じくらいある。
『模倣犯』宮部みゆき
重厚さが欲しいときに。犯罪を起点に、周囲の人間たちの心がどう動いていくかを丁寧に追う長編。文量はかなりあるけれど、読みやすくて引力がある。『告白』とはトーンが違うけれど、「人の心の深いところ」を覗く体験として近いものがある気がしている。
読んだ夜が、少し変わる
先生の最初の告白が終わったあと、物語は静かに、でも確実に動き出す。
ミステリーだと思って読み始めたのに、気づいたら別の何かを読んでいた——そういう感覚が、読後にじわじわと来る。あれはなんだったんだろう、と少し経ってからも思い出す。




