『硝子の塔の殺人』:知念実希人が詰め込んだミステリへの愛

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頭の中に”あの塔”があった。
透明で、冷たくて、美しくて
心が燃える。

江戸川乱歩が生み出した探偵たちを思い出した。
あの時代からずっとバトンは受け継がれてきたんだ、ミステリへの愛に溢れた作品。

目次

知念実希人という作家が、本気でミステリと格闘した一冊

知念実希人、という名前を聞いて「医療ミステリの人でしょ」と思った人に、まず言いたい。

違います。

『硝子の塔の殺人』は、医療ではなく、クローズドサークルミステリ。孤立した空間で起きる連続殺人。鍵のかかった密室。嵐。外部との完全な遮断。ミステリ小説がこれまで積み上げてきたあらゆる”お約束”が、この一冊にぎっしりと詰め込まれている。

でも、ただ詰め込んだわけじゃない。

知念実希人はそのすべてを愛している。本の中でそれが伝わってくる。ミステリというジャンルへの、作者自身の深い愛情と、それに匹敵する確かな技術。その組み合わせが、この小説を単なるオマージュ作品では終わらせていない。

愛情だけでは小説は動かない。でもこれは、ちゃんと動いている。

全面ガラス張りの塔、嵐、そして死体──あらすじを体感として

山の中に、突然現れる塔がある。

全面硝子張り。外が丸見えで、内部も丸見え。美しいというより、どこか異様な建物。そこに招待状を受け取った人々が集められる。招待者は誰か。目的は何か。その時点では、まだ誰も知らない。

主人公は若き医師の碧山渡(あおやまわたる)。彼が招待されたのは、資産家が建てたその”硝子の塔”──名前をアルカナ・タワーという──での宴会だった。

集まった客たちは、それぞれが謎を抱えている。何かを隠していそうな者もいれば、ただ戸惑っているだけに見える者もいる。そして嵐が来る。外部との連絡が途絶える。誰も出られなくなる。

その夜、死体が出る。

密室で。

状況が状況なだけに、疑いはすぐに内部の誰かへと向く。そしてもう一人の人物が動き始める。この物語における”探偵役”──彼女の存在が、この小説の空気をがらりと変える。

論理的で、冷静で、ちょっと怖い。

彼女が推理を展開するたびに、自分も一緒に考えていた。いや、考えさせられていた、という方が正確かもしれない。手がかりは全部出ている。でも、辿り着けない。何度か「これか?」と思って外した。

どんでん返しがある。

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こんな人に刺さる

– クローズドサークルミステリが好き、もしくは一度ちゃんと読んでみたかった
– アガサ・クリスティや綾辻行人の作品を読んだことがある(もしくは興味がある)
– 「トリック」より「構造」に唸りたい
– ミステリのお約束を楽しみながら、それでも騙されたい
– 伏線回収の瞬間に、思わず声が出てしまうタイプ

逆に、人間ドラマや情緒的な心理描写を重視したい人には、少し合わないかもしれない。これはどこまでも、ミステリとして組み立てられた小説だ。

この作品の読み方

読む時間帯と環境。

深夜がいい。

静かで、外が暗くて、周りに人がいない時間。この小説は、孤立した塔の中を体験する話だから、自分自身が少し孤立した状況で読んだ方が入り込める。週末の夜、スマホを遠ざけて、一気に読む。できれば途中で止めない方がいい。止めるとリズムが崩れる。
ああでも、真夏のカラッと晴れたビーチっていうのも案外ハマるかもしれない。

通勤・通学には向かない。続きが気になりすぎて、目的地を乗り過ごす可能性がある。

近い設定の作品を探しているなら

『十角館の殺人』 / 綾辻行人
クローズドサークルミステリの日本における原点に近い一冊。『硝子の塔』を読んで興奮した人が次に読むなら、まずここ。両方読むと、知念実希人が何を受け継いで、何を更新しようとしたのかが見えてくる。

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『アクロイド殺し』 / アガサ・クリスティ
ミステリ史上もっとも有名などんでん返しのひとつ。『硝子の塔』と読み比べると、「騙されること」の設計がいかに精巧な技術であるかを実感できる。クリスティを未読のまま『硝子の塔』を読んだ人には、特に。

作者の情熱に感動する

ミステリを読んでて感動して泣くことはめったにないのだが、この作品に関しては、作者のミステリへの情熱がこれでもかと詰まっているのが、美しく冷たい硝子の塔の世界と冷静な筆致からでも伝わってくる。

追いかけて追いかけて、愛して愛してたどり着いた作品だったんだというのが、物語とキャラクターを通して圧倒的な圧縮のされかたで押し寄せてくる。

硝子の塔は、嵐の夜に人を閉じ込める。

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